わが国の福祉サービスは、戦後、行政がサービス受給者を決定し、施設でサービスを提供する形で整備されてきました。
世紀の変わり目を境に、福祉サービスは「措置から契約へ」と変化し、高齢者、子育て、障害者いずれの分野においても、当事者のニーズに沿ったサービスの提供が広がりました。
こうしたサービスを担う主体として、NPOや住民活動グループなどが多く誕生しています。

高齢者介護をめぐる状況をみると、地域包括ケアシステムを構築していくという大きな目的に向かって、介護予防・日常生活支援総合事業(「総合事業」)の展開に力を入れる方向性が示され、地域における多様な活動主体が交流の場を運営する活動に、これまで以上の期待が寄せられています。
しかし、こうした主体の多くは資金力が十分でなく、活動の場の確保が課題になっています。

高齢者が増加している地域は空き家が発生しやすい地域でもあります。空き家を活用することによって、住みなれた地域のなかに効率的・効果的に活動拠点をつくることが可能になります。
また、空き家を高齢者の介護予防の活動に利用するだけでなく、同じ場所を子育て中の親子が集う場や子ども食堂などにも利用している事例もあり、世代間の交流を図る場とすることもつながります。

空き家は防災・防犯の点でまちにとってマイナスの要素ですが、福祉的活用によって、新しいコミュニティをつくりだし、まちの活性化に貢献するプラスの要素に転換することが期待されます。

大江 守之 慶応義塾大学 名誉教授