空き家×福祉について
気になるコツを聞きました!

大型店舗兼住宅を改修、シェア方式で子どもサロンを運営:ぽらむの家 ほか
<越谷市住まい・まちづくり協議会>

産官学連携による住まい・まちづくりプラットホームの構築を目指す
~越谷発:協働のまちづくりに向けた取り組み~

空き家に「子どもサロン」がオープン

埼玉県越谷市でこども食堂を運営していたグループが、2018年(平成30年)4月、「子どもサロン」をオープンしました。
場所は旧日光街道に面している店舗兼住宅だった木造2階建ての1階の一部。ここを越ヶ谷こどもかふぇ食堂 「ぽらむの家」と名付けました。「ぽらむ」とは韓国語で「やりがい」を意味する言葉です。

週1回夕食を提供しており、生活困窮の子供に限らず、だれでも利用できます。
食事の他に、子どもたちの放課後の居場所、学習支援の場、保護者が話し合えるサロンとなっています。夏には奥にある一般家庭用の風呂に入ってから帰宅する子どももいるそうで、過ごしやすい居場所になっています。

建物横にある「ぽらむの家」の入り口

こども食堂の奥のお風呂

建物前部分の子どもアトリエ「コトリエ」

コトリエ内部

2020年(令和2年)は新型コロナウイルスのため、3月から食堂は中止にしたものの、食材の配布を行い、また9月からはテイクアウト弁当の販売を行っています。JAやフードバンクなど地域の関係者から大量の米や食材の寄付を得て、多い時には100食が完売するときもあります。コロナ禍でも一定の役割を果たしています。

10月からは地元の文教大学のボランティアサークルと連携して、学習支援の取り組みを始めています。子供たちの自習を必要に応じて大学生が手助けしたり、一緒にイベントを開催したりしています。

プロフィール

  • 運営団体:ぽらむの家
  • 施設名:越ヶ谷こどもかふぇ食堂「ぽらむの家」
  • 事業内容:こどもサロン(こども食堂、学習支援)
  • 開設時期:2018年4月

空き家の活用にいたる経過

子どもサロンを運営するグループは、2017年(平成29年)1月に代表の青山享美(きょうみ)さんが「子供や母親の居場所を作りたい」と考えてママ友と始めたこども食堂が前身です。
知り合いの飲食店を借りて月1回子ども食堂を開いていましたが、多くの親子が来て入りきれなくなり、また、食堂以外にも使える拠点がほしいと考え場所を探していたところ、現在の場所を紹介したのが「越谷市住まい・まちづくり協議会」(以下、「協議会」)でした。

この場所は、元の衣料品店が廃業したため、市の商工会が一時起業支援のチャレンジショップとして使っていましたが、その後空き家となっていました。大型物件であるため、一つの団体では活用が難しいと思われ、共同利用できるように見学会を兼ねたワークショップを4回開催し、参加者が活用方法を話し合いました。

見学会の資料

ワークショップの様子

当初は共同でまちづくり会社を設立して運営してもらうことを考えていましたが、結果的には「ぽらむの家」メンバーが一括して借りて、こどものアトリエやIT系のベンチャー企業にサブリースしています。もともと施設全体を子ども関連の活動や事業を行っている団体で利用する構想でしたので、ベンチャー企業には子どもパソコン教室等を開催してもらい、子どもたちが楽しく集まれる場になっています。

1階奥の住宅だった部分をこども食堂が使うことになったため、傷んだ床を撤去し、雨漏りのひどい部屋(間取り図の黄色部分)の屋根を撤去してパティオ(中庭)に改修しました。内装はDIYで行い、できるだけ現状の間取りで使っています。新設したトイレの便器は地元建設会社から寄付を受けるなどして、改修工事費を切り詰めました。

パティオに改修した空間

子ども食堂の様子

ぽらむの家のメンバー

厨房の様子

間取り(赤色部分が子ども食堂)

物件詳細データ

物件について

  • 所在地:埼玉県越谷市越ケ谷本町8-3
  • 構造・階数:木造2階建て(延床面積337.18㎡)の1階の一部
    (1階の一部はこどものアトリエ「コトリエ」が、2階はITベンチャー会社が使用)
  • 建設時期:1963年(昭和38年)7月建築、1969年(昭和44年)12月増築
  • 改修工事:有

資金について

  • 財源・運営資金:食堂の売上
  • 運営費補助金:無(食材の寄付あり、スタッフは無償ボランティア)
  • 設置費補助金:無

空き家活用のけん引役となっている「越谷市住まい・まちづくり協議会」

越谷市では、1986年(昭和61年)に住宅産業関係者が中心になって「越谷市街づくり協調会」を設立し、協働のまちづくりを推進するため、建築協定や景観計画の支援に取り組んでいました。

その後、市民や専門家が参加して、住環境の維持管理とコミュニティの形成を図る中間支援組織として、2012年(平成24年)に「NPO法人越谷市住まい・まちづくりセンター」に発展しました。

このNPOが中心となって、2012年に新しい公共支援事業の助成を受けて産官学連携による住まい・まちづくりプラットホームの構築を目指す「越谷市住まい・まちづくり協議会」を結成しました。

組織図

協議会では居住福祉部会で空き家相談会や空き家バンクを運営しており、多くの空き家の活用を実現してきましたが、そのひとつの事例が今回紹介した「ぽらむの家」です。

協議会が支援した代表的な事例としては、「ぽらむの家」のほかにも、

  1. みんなの家プロジェクト
  2. 油長内蔵(まちづくり相談処、まち蔵カフェ)
  3. はかり屋(商業モール)

などがあります。

NPO法人越谷市住まい・まちづくりセンターの代表理事で、協議会の代表でもある若色欣爾(きんじ)さんに現地を案内していただきましたので、それぞれの概要を紹介します。

みんなの家プロジェクト

みんなの家プロジェクトは、空き家を地域のコモンスペースとし、まちのリビングルームのように気軽に集まってお茶をしたり、イベントを開催するスペースとして活用したりする取り組みです。

「大里東みんなの家」は、所有者が長く老人ホームに入所されていて空き家になっており、遠方に住む管理者のお孫さんが空き家の管理が大変であるということで、当団体の空き家相談会に来られました。「無償でもいいから地域の方に使ってもらえれば」ということでしたので、地元自治会に声をかけ提供されることになりました。改修工事はほとんどDIYで、運営は文教大学の学生が周辺住民の聴き取り調査を行い、その結果を参考にルールを定めて行っています。

大里東みんなの家の外観

残留物のかたづけ

企画提案コンテストの模様

提案の発表風景

オープニングイベントの様子

文教大学の学生がペイント作業やオープンイベントを手伝い、その後も地域の活動に参加しています。住民が本を持ち寄る「みんなの図書館」や、たこ焼きパーティー等を開催してきましたが、残念ながら所有者が亡くなり更新契約ができず、みんなの家は閉鎖されました。

このプロジェクトを契機に自治会長さんが他の空き家を探して、学生のシェアハウスに活用する計画です。

物件詳細データ

物件について

  • 所在地:埼玉県越谷市下間久里
  • 構造・階数:木造スレート葺2階建(敷地面積:110㎡、延床面積:63㎡)
  • 建設時期:昭和40年(1965年)

油長内蔵(まちづくり相談処、まち蔵カフェ)

油長内蔵(あぶらちょううちくら)は、地元企業により曳家改修(※)され、越谷市に寄贈された蔵を、NPO法人越谷市住まい・まちづくりセンターと協議会が中心となって越谷市から借り受けました。まちづくり相談処、まち蔵カフェとして、景観協定地区の運営支援や、空き家・空き店舗等を有効活用して越谷市中心市街地の街なか居住を推進する拠点となっています。

※曳家:建築物や樹木などの重量物をそのままの状態で移動する建築工法

おもな事業内容は下記の3点です。

①景観協定地区の運営支援
NPO法人越谷市住まい・まちづくりセンターは越谷市から景観整備機構の指定を受けており、隣接地に開発された越谷市最初の景観協定地区の運営に関する支援をしています。

②空き家、空き店舗等の有効活用
運営母体となる「油長内蔵運営協議会」を商工会議所と地元企業で設立し、この蔵を拠点とし、周辺の空き家・空き店舗・空き地の有効利用を支援しています。また、ホームページを立ち上げ、案内リーフレットや新たな空き家バンク活用ツール等を制作しています。

③まち蔵カフェ(コミュニティ・カフェ)の開設
地域のお祭りやイベントと協賛することにより、中心市街地におけるにぎわいを創出し、地域の寄合処やふれあいサロンとして活用しています。また、シニア生きがいカフェや多世代交流サロン「クロスオーバーカフェ」を定期的に開催しています。

油長内蔵の外観

建築相談会

まち蔵カフェ

交流サロン

油長内蔵を所有していた山﨑家は江戸時代の国学者である平田篤胤(あつたね)と縁が深く、この蔵には貴重な史料が保存されていました。地元の郷土史研究グル―プが調査したところ、越谷市史を見直さなければならない程の新発見や、国の専門機関から来ていただいた研究者も認める非常に貴重な史料であることがわかりました。

そこで、越谷市教育委員会やNPO団体、商工会議所、地元企業等と連携して展示会と記念講演会を実施したところ、延べ330名の市民が来場し、成功裏に終わりました。

展示会・記念講演会ポスター

この展示会を契機に、市の郷土資料の保管や調査のあり方を見直す動きも出ています。越谷市には博物館や郷土資料館がなく、協議会では旧日光街道越ケ谷宿に残っている多くの蔵や歴史的建築物を活用して、分散型の「こしがや街かど博物館構想」を市長にも提言しています。

旧日光街道越ケ谷宿周辺の街かど博物館候補

物件詳細データ

物件について

  • 所在地:埼玉県越谷市越ヶ谷三丁目2-19-5
  • 構造・階数:土蔵づくり瓦葺2階建(敷地面積:100.16㎡、延床面積:48.96㎡)
  • 建設時期(推定):江戸時代後期

はかり屋(商業モール)プロジェクト

はかり屋は、旧街道に接した築120年のお屋敷、旧大野邸 「秤屋(はかりや)」を改修した建物で、設計事務所、レストラン、ショップ、イベントスペース等が入っています。

所有者から地元企業が取得してまちづくり会社に一括賃貸し、まちづくり会社が改修して複数のテナントにサブリースする方法を取っており、空き家を公的な補助に依拠せずに持続的に活用する仕組みと言えます。

はかり屋外観

はかり屋プロジェクト

はかり屋プロジェクトは地元企業の協力で実現しましたが、今後はまちづくり会社が中心となり、この地域に残っている蔵や歴史的建築物を活用していく計画です。

2019年度(令和元年度)は、味噌屋を生業としていた都築家の糀屋蔵を絵本のあるカフェとして再生し活用しています。この蔵は鉄筋コンクリート造で大正時代に造られたとされており、建築的にも大変価値のあるものです。

物件詳細データ

物件について

  • 所在地:埼玉県越谷市越ヶ谷本町8-8
  • 構造・階数:木造瓦葺2階建一部土蔵造り(敷地面積:610.96㎡、延床面積:279.02㎡)
  • 建設時期:1905年(明治38年、推定築年数約120年)