空き家×福祉について
気になるコツを聞きました!

市民力と身近な空き家でエイジング・イン・プレイス!
:テンミリオンハウス
<武蔵野市>

テンミリオンハウス (くるみの木)

市民の活力と共助の精神をベースとした
地域ぐるみの支え合いの場
~武蔵野市発:地域住民やNPOが担い手の共助の仕組み~

戦後、市民と行政が一体になってコミュニティづくりをしたまちとして知られている武蔵野市。
市民の特徴は、生涯学習やボランティア活動の参加者が多く、向上心や社会参加意識が高いといわれています。

そのような基盤の上に、市が展開したのは、市民の活力と共助の精神をベースとした地域ぐるみの支え合いの場「テンミリオンハウス」。
その名の通り年間1000万円を上限とした運営費の補助を市が行っています。
武蔵野市健康福祉部高齢者支援課 花木様にその取り組みについて伺いました。

テンミリオンハウス (くるみの木) 庭の様子

プロフィール

  • 営団体:NPO法人ワーカーズどんぐり
  • 施設名:くるみの木
  • 事業内容:高齢者・共生
  • テンミリオンハウス開始時期:平成20年

空き家等を利用した「近・小・軽」の通いの場

まず、テンミリオンハウス事業の経緯や目的をお聞かせください。

花木 事業のきっかけになったのは2000年の介護保険制度導入でした。デイサービスの利用者の3割が介護保険を使えないことがわかりました。
介護保険対象外の人達の通所で保たれていた健康が損なわれないようにと、介護保険とは別建てで、共助で運営するデイサービス「テンミリオンハウス事業」ができました。

キャッチフレーズは「近・小・軽」で、「身近に施設があれば気軽に、家族のつながりを保ちながら利用でき、ともに支え合うことができる。小さな施設なら、フットワークを生かして、利用者の立場にあった柔軟なサービスを提供できる」という考えでつくられました。
現在市内で8か所のテンミリオンハウスが運営されています。

「テンミリオンハウス」では、どのような活動をされているのでしょうか。

花木 高齢者の通いの場が中心ですが、喫茶、イベントなど地域住民も参加できます。その他、児童向けの講座など運営団体の創意工夫で行われています。

日によって異なりますが、午前と午後に講座が1つずつあり、その間にランチを挟みます。
講座の内容は、体操、ヨガ、編み物、パッチワーク、水墨画、コーラス、大人の塗り絵など多種多様です。
利用者が自分の得意を活かして講師になったり、講師が利用者になったりすることもあるようです。

地域の人達が腕によりをかけてつくるランチが美味しいと評判です。食事が大きな魅力となり、利用者が継続的に足を運んでいるようです。1食400円から600円程度と良心的な値段で、一食たべれば1日の栄養がとれるといわれるほど品数も豊富です。

地域とのつながりを深めるために、ガーデンパーティー、落語会、ミニコンサートなど様々なイベントも行われています。
広い庭を持つ施設では、ガーデニング講座を取り入れているところもあります。
また、花時計では乳幼児親子向けの遊び場、児童向けの伝統文化継承講座など世代間交流を行っています。
施設によって活動内容が異なります。

月見路 活動風景(コーラス)

川路さんち 活動風景

きんもくせい 活動風景

ふらっと・きたまち ランチ

花時計 喫茶メニュー例

ご利用者はどのような方でしょうか?

花木 主な利用者は市内在住の65歳以上で、基本的には自分で通所ができる方です。
100歳近い方が通われている施設もあります。
市の移送サービスのレモンキャブで来られる方もいらっしゃいます。

長年の利用者であれば、認知症の進行や身体機能の低下があっても受け入れています。
ご家族などと相談しながら、運営団体の対応が可能な限り長く通えるようにサポートしています。

喫茶やイベントは地域の方は誰でも参加できます。
一日当たりの利用者数はおおむね10人から20人程度で、多いところで年間延べ8000人、少ないところで4000人の利用があります。

市民から提供・寄贈された建物を改修して活用

テンミリオンハウス設置状況等について、お聞かせください。

花木 施設として物件がタイミングよく見つかった場合に開設しているため、8施設目が開設するまで約17年を要しました。
市内には地域社協が13あり、それと同数ぐらいまでを設置目標と考えております。

地域に対して積極的に設置の働きかけは行っておりません。
未だ設置されていない地域に適当な物件があり、所有者との間で契約締結の内諾があれば、予算化し、地域住民へ説明後、建物改修と並行して運営団体を公募します。

市民から提供・寄贈された建物を利用している施設についてお聞かせください。

花木 これまで開設された8件のうち民間物件の活用は5件です。

最初にできた「川路さんち」の土地建物は市民からの寄付、「きんもくせい」「花時計」「くるみの木」の3件は市民からの申し出により賃貸となっています。

また、「ふらっと・きたまち」は自宅建替えに伴い家主から1階を提供され開設しましたが、途中で土地・建物を市に寄付するとの申し出があり、現在、家主は市から借家するかたちで現在居住されています。

基本的に市は市民から申し出があった場合に調査し、施設の適しているかどうかを判断しています。

川路さんち 外観

ふらっと・きたまち 外観

施設に適している物件はどのようなものでしょうか?

花木 高齢者が集まる場所のため、1階のみの活用となります。1階の床面積がおおむね85㎡以上あれば利用しやすいと思います。
逆に、建築基準法に違反している物件、改修費用がかさむ物件、建物のつくりや使い勝手が施設に向かない物件、周辺相場と比較して資料が高額すぎる物件は、精査したうえでお断りしています。

設置費、運営費などの活動支援についてお聞かせください。

花木 設置費については、市が空き家の改修費用を全額負担するとともに、運営費については、年間1,000万円を上限に運営団体に補助しております。

また、運営団体には東京都の最低賃金を守るようにお願いしておりますが、最低賃金は毎年上昇しているのに対し、補助金額は20年変わっていないため、人件費を圧迫するようになってきました。
そこで、平成30年から運営費補助の中から支出していた光熱水費の8割を、市が別途で補助負担するようになりました。

運営団体の継続性

最初のテンミリオンハウスができてから、今年で21年になりますが、運営団体の運営の継続性はいかがでしょうか。

花木 市との契約期間は5年間と決まっているものの、公募の際は運営を行っている運営団体がどうしても有利になるため、1ヵ所以外は同じ運営団体が引き続き事業を行っています。
多くの団体は、同じ年代で、同じ志を持った人たちが意気投合して集まって始めたので、時間の経過とともに年を取り、いずれは人が入れ替わることが予想されます。
公募の時期が巡ってくる際、組織体制を整えたり、人員が入れ替わる機会になっているようです。
運営団体によっては定年制を設けるなどして、幹部スタッフの交代などが行われています。

テンミリオンハウスが地域にもたらした新しい価値

最後に、テンミリオンハウスが地域にもたらしたことは何でしょうか?

花木 建物所有者にとっては、使っていない建物を地域の福祉のために活用することにより、所有物件が荒廃することなく、維持することができます。

利用者の立場からみると、通所するだけでなく、自分の得意なことを活かして、人に教える側になることも可能です。
運営団体は地域のことをよく知っているスタッフが多いので、利用者も自然と共助の輪の中に入っているようです。

運営の参加者にとっては、退職や子育てが終わった後、活動を通して生きがいややりがいを持つことができます。
自分の持っている技術や知識を発揮する機会にもなります。また、運営の担い手にとっては、地域の様々な人々とのつながりができます。

福祉関係者には、地域に密着した助言や情報提供の場となります。
テンミリオンハウスを介して相談を受けたり、高齢者への啓発や注意喚起などテンミリオンハウスを活用して実施することもあります。
また、要介護状態や認知症の進み具合などを見て、地域のしかるべき事業所へつなぐ気づきの場となっています。

 

テンミリオンハウスは住民同士の連携を育みながら、市民のニーズをくみ取りつつ、近隣の高齢者の健康維持や介護予防、地域交流に貢献してきました。
そのベースには眠っていた地域の人材の掘り起こしや、使われていない建物を蘇らせる仕組みがあり、高齢者だけではなく地域にも活力を与えています。
設置費の全額補助や1000万円上限の運営費補助、そして、スタッフの賃金を都の最低賃金以上にする方針などは、他の自治体にある同様の活動団体のそれと比べると大変恵まれたものになっています。
地域に根差し、多くの利点をもたらしているテンミリオンハウス、長年活動している運営団体が、これからどのように推移していくか、注目したいと思います。

詳細調査データ

物件について(くるみの木)

  • 所在地:東京都武蔵野市中町
  • 構造・階数:木造(ツーバイ・シックス)・平屋
  • 建設時期:平成9年
  • 改修工事:平成20年

資金について

  • 財源・運営資金:補助金/利用料/その他
  • 運営費補助金:有(人件費/管理費/事業費、上限1,000万円)・光熱費の8割
  • 設置費補助金:有(全額)